メール

仕事の連絡が、丁寧なメールのみで進む仕事が結構好きだ。実際に使ってるツールは、LINE、Facebookメッセンジャー、Slack、Skypeあたりが多いけれど、参加した時にメールベースで進む案件だと分かると、ちょっと嬉しい。別に新しいツールに抵抗がある世代でもないし、基本的にはむしろ恩恵を与っている身だけれど、それでもチャット至上主義にはなれないというか、メールの良さだって大いにあると思うのだ。

メールは儀礼的な言葉やテンプレも多いし、1行程度の内容では間抜けで送りづらいし、何かと面倒な連絡手段だとは思う。でもだからこそ、送信することに対して少し丁寧になる。チャットに比べた不便さが生む、良い重さや緊張があると思う。

まず内容に関して、チャットに比べて幾分か慎重になる。使う言葉を選ぶ。文ではなく文章としての読みやすさを加味するし、テキスト全体の形を整えるために改行位置にも気を使う。段落間の繋がりや、全体の流れも意識する。同じ内容であっても、伝え方の中に確かな気遣いを含ませることができるように思う。受け手としても、そのようなメールを受け取ると背筋が伸びるし、向き合う内容にも自然と注意が向いてくる。

あとは上手く言えないけれど、メールは人に依頼や報告をするにあたっての、適切な重みを帯びてくれる気がする。チャットの場合はどんな内容でもペラっとした裸の便箋で渡すような感覚だが、メールはその気になって書けば、厚手の紙を封して送るような重みを帯びさせることもできる。たいそうな尊敬語や修飾語を使わずとも、フォントを太字や明朝体にしなくとも、文章上の様々なディテールの積み重ねが適切な佇まいを作ってくれる気がする。

機能的な意味でも、SlackはまだしもFBやLINEには流石に無理を感じることがある。単に、あまり長い内容をやりとりするように設計されていないのだろう。特に映像のアップデートを報告する際は、 ①どんな修正要望に対して ②どのように考え試行錯誤を行い ③結果としてどのような処理をしたのか を各点に対して列挙するので必然的に長くなってしまう。あの吹き出し枠のインターフェースに、読みやすい形では書けない。

先方がモバイルで読むことも想定すると、改行を加えることでかえって読みづらくさせることがあるので、「文面」として整形しようが無い。引用返信のような仕組みもないので、丁寧に返信しようとしても上手くいかない。気遣いたくとも雑さを強いられる感じがして悔しい。メールなら段落等で上手く区切れば、項目単位の情報として分かりやすく1通にまとめられる。こちらが丁寧に書いてさえおけば、相手は項目毎に読み飛ばすか、熟読するかをそれぞれ選ぶことだってできる。

もちろんチャットベースで細かくフィードバックとアップデートのサイクルを回すことが大切な仕事もあるだろうし、社内の細々した業務連絡、ざっくばらんなブレスト、アイディアを出し合いながらの開発など、チャットが最適な場面はたくさんある。でもメールで進む案件というのは、裏を返せばスケジュールに余裕があるということだったり、せわしくなく連絡を取らずとも滞りなく進行する仕組みが存在することであったり、相手への信用のベースが高いことであったりする。

毎日せっせと取り組んでいながらも、月に数通のビシっとしたメールを交わせば進むような仕事は、互いに余裕と緊張のバランスのとれた、中々気持ちの良いものだと思う。