サブディビジョン・モデリング

サブディビジョン・サーフェスと呼ばれる、曲面を表現する仕組みがある。端的に説明するとカクカクしたポリゴンを滑らかに分割・補間する仕組みなのだが、その適用を前提としたモデリングをサブディビジョン・モデリングと呼んだりもする。柔らかいフォルムの生物からソリッドなプロダクト系まで、モデリングでは幅広く用いられる手法の一つだ。

これは通常のモデリングと比べて多少面倒な作法が要求されるのだが、近年はいくつかの理由から「ほぼ必須スキル」であった以前とは若干状況が変わってきたように思う。自分の想像する、主だった要因は以下のあたりだ。

  • 平均的なマシンパワーが上がり、後工程での細分化に頼らずとも最初から高いポリゴン数のままモデリングからフィニッシュまで行えるようになった。
  • ポリゴンを扱う側のアルゴリズムが改善され、多少煩雑なメッシュであってもそこに二次的な編集を施したり、滑らかな表示がエラーなく行えるようになった。
  • リメッシャーと呼ばれる、どんなメッシュでも「人間がサブディビジョン・モデリングしたかのようなメッシュ」へと自動で変換するような仕組みが生まれ、その完成度が恐ろしく上がってきた。
  • ボリュームモデリングの台頭により、本来SDSしか選択肢のなかった「複雑で有機的な曲面」をモデリングする際の選択肢が増えた。

これらの状況が相まって、ジャンルによってはよほどの精度が求められない限りは不要なスキルになったとも言え、その必要性についての議論を自分の観測範囲でも度々目にする。

どうもセンシティブな話題なようで、普段穏便なレジェンドたちがこの話題になると急に語気を荒げた発言に出たりするので焦る。ただ、恐らくは長い時間と経験を費やして身につけたスキルや「業界的に常識・最低限」とされていた作法を新参者に無下に扱われることに加え、自動化の波が迫る状況に不安を抱くのは想像に難くない。

自分のモデリングスキルは全く大したことないけれど、それでも多少なりとも頑張って得たスキルの希少性が日々下がっていく状況に寂しさを覚える側の人間ではあると思う。一方で技術が進み、参入障壁が下がり、取りうるツールの選択肢が増えることは素直に喜ばしい状況でもある。(自分も頻繁にリメッシャーの世話になるので)

それは別として、負け惜しみのようにしか見えないと思うが、自分がSDSモデリングを愛してやまないポイントを下に並べてみる。自分は仕事でモデリング業務が発生することはほぼないので、そもそもが趣味嗜好的な視点になってしまうが、SDSモデリングは実用面を差し置いても、その作業自体がとても楽しいのだ。

  1. モデリング対象となる形に対して、大まかなシルエットからディテールへ、形を捉える目の粒度を少しずつ細かくして、段階的に形に反映していく必要がある。たとえ細部を整えている最中に、見えていなかった全体の起伏や傾斜を見つけたとしても基本的にはやり直しが効かず、そのステップまで戻る必要がある。そこに程よい緊張感が生まれる。
  2. エッジの流れの根幹となる線を見つけられると、無理なくその先のポリゴンの分割が進む。メッシュ全体の形も説得力を帯びてくる。自分が何となく好きだった形の、骨格を掘り出していくような楽しさがある。作業効率的にも、エッジフローが上手く作れると適切なループ選択が効くので、同時に効率化も図ることができる。
  3. 一見後戻りの効かない、地道で破壊的に見える作業の中にも、非破壊的に進めるテクニックがいくつか存在する。例えば第一段階で作った外形のエッジをできる限り触らないようにエッジの追加を進めることで、あとから面取り具合を調整したり、取り除いて一段回戻ることもできる。機能としては用意されていないが、データ作りの工夫次第でその行き来ができる。
  4. 作法として、基本的に全てのポリゴンを四角形で構成することが良しとされる(各辺を二分割することで同じ四角形の集合となるため)。全体のエッジの流れを保ちながら、いかに三角形や五角形を作らないように線を繋ぎ替えるか、というのは脳にとって程よい負荷のようで、小さなパズルゲームを解き続けてるような心地よさがある。慣れてくると周囲のポリゴンの並びで、何となく問題となっているポリゴンをどう切れば良いのか、蓄積されたパターンから引き出せるようになる。そして全ての可能性を吟味した上で、あえてn角形を配するときの楽しさもまたひとしおである。(一回以上の細分化で四角形になることを見越す)
  5. 特に画像を敷いての作業では、Illustratorでのトレース作業で得られる楽しさと似ている。元の線をゆっくりなぞる気持ち良さや、最小限のアンカーポイントで形を捉えることができたときと同じ満足感がある。ただし曲線のハンドルにあたる概念はないため、点を折ったり左右を不均等にしたりといった調整操作のない分、よりストイックさが増す。面の分割のみをヒンティングしていくことで、ごくシンプルなアルゴリズムに複雑な形状を表現させるところに、その醍醐味がある。(weightを多用すれば別だが好きではない)
  6. 形を精緻に制御するためにはメッシュの均一性(各ポリゴンの過度な大小を作らない) も大切になってくるが、綺麗で均質な四角ポリゴンで構成されたモデルは、テクスチャをはじめとしたuv処理や、ダイナミックな変形、破壊等のシミュレーションにおいても大いに有利にはたらく。見た目の美しさや歪みの少なさが、データ的なそれに直結している。
  7. 出来上がった滑らかな曲面を、そこに表現されている以上に「無限に滑らかになる可能性をもった曲面」として眺めるのが最高に楽しい。

個人的には実用面で全くその必要性がなくなったとしても、単なる楽しい営みとしてこれからも続けるだろうと思う。SDSモデリングはコンピューター上で行う作業の中でも特に楽しいもののひとつなので、イラレでのトレース作業などが好きな人には是非一度おすすめしたい。