引越
郊外から都内へ戻ることになった。
20代の頃は都内を10回以上引越す引越狂いだったけれど、30代に入ったここ数年、少し郊外へと足を伸ばしてみた。これまで一度も賃貸契約の更新を迎えないまま点々としていたのに、今回は二度目の契約更新も差し迫るほどになっていて、流石にちょっと引き剥がすのに苦労する程度には根が張られた感覚があった。
移り住んだ当初は、さらに都心から離れるための練習台にしようとしていた節があったものの、結局戻ることになったのでその観点では失敗といえる。けれどこんな自分でも、いざとなればスーパーへ出向き食材を買い調理をするに至るのだと分かり、憧れていた車生活はやっぱり最高に楽しいということも分かったので、収穫がゼロというわけでもない。都心から離れても、まあ何とかなるのだと具体的な想像が進んだ。
ちょうど世間がコロナ禍になったのも移住と重なっていたので、立地の利便性よりも居住空間に家賃を全振りしていたのもラッキーだった。世間がオンラインベースになり、仕事もほぼ在宅だったけれど、適度な部屋数と平米数のお陰で家で息が詰まるということがあまりなかった。たとえ機能的に困らずとも、息をするための空間というのは在宅時間に比例して必要らしい。
都内に戻るとやっぱり何もかも便利だなと思うし、ごく普通の駅前の人や店の密度につい胸が踊ってしまう。その辺の通りや街角単位のスケールで、当然のように文化や歴史が積み重なっているのが感じられ、逆にこの密度が普通になると日本の大半の場所が空虚に思えてしまいそうだけれど、それはそれでどうなのか。
都内へ戻ると同時にシェアオフィスにも入ることになり、ひたすら家に籠もっていたここ数年を思うと、単なる生活圏の移動以上の転機になりそうだと感じる。外に出て人と会い、もう少し身も心も外へ開いていきたい。コロナ禍開けの世間にもそんな空気を感じる。